病態図鑑

甲状腺の軸

TSHとFT4が同じ向きか逆向きかで、壊れた場所が分かる

甲状腺の軸 — TSHとFT4が同じ向きか逆向きかで、壊れた場所が分かる 左は視床下部・下垂体前葉・甲状腺を簡略化して縦に並べた絵で、上からTRH・TSH・T4/T3が流れ、T4/T3が上の2つを抑え返すネガティブフィードバックを破線で描いている。壊れうる4か所に番号を置いた(4のホルモン不応症は受容体の異常が全身に及ぶため, フィードバックを受ける視床下部・下垂体と末梢の標的組織の2か所に×を置いた)。右はその4か所それぞれで何が起こるかを並べたもので、TSHとFT4が同じ向きに動くか逆向きに動くかが最初の分かれ目になり、同じ向きに動く2つ(TSH産生腫瘍とホルモン不応症)は検査値だけでは区別できないことを示している。臓器の地色は装飾で、意味を持つのはカードと番号の色。 甲状腺の軸 — TSHとFT4が同じ向きか逆向きかで、壊れた場所が分かる 逆向き(TSH↑・FT4↓)なら甲状腺そのもの. 同じ向きに動くなら上流(視床下部・下垂体)か, 受容体そのものの異常. 視床下部 TRH 下垂体前葉 TSH 甲状腺 T4・T3 全身の標的組織 抑え返す ネガティブフィードバック 1 2 3 4 4 縦積みは上流→下流の順序. 番号は「どこが壊れるか」. 同じ向きに動くか逆向きかが, TSH/FT4を読む軸(右のカード参照). 1 甲状腺そのものが壊れる(原発性) 橋本病・術後・放射性ヨード後など → 甲状腺がホルモンを作れない → FT4は下がる 抑え返すものが減る → 視床下部・下垂体は正常に働く → TRH・TSHは上がる 決め手はTSHとFT4が逆向き(TSH↑・FT4↓)。頻度は最多 潜在性ではTSHのみ上昇しFT4はまだ正常域にとどまる 2 上流が壊れる(中枢性=下垂体性・視床下部性) TRH・TSHの指令が甲状腺に届かない → 甲状腺自体は正常でも動けない → FT4は下がる 司令塔が壊れている → TSHは上がるべきなのに低値〜正常域にとどまる 決め手はFT4低値なのにTSHが上がらないこと。TSH単独では見逃す 下垂体の障害なら他の前葉ホルモン欠損を伴うことがある(必ずFT4も測る) 3 下垂体が刺激を出し続ける(TSH産生腫瘍) 腫瘍が自律的にTSHを分泌 → 甲状腺は正常なまま刺激され続ける → TSH・FT4がともに高い SITSH(TSHの不適切分泌)の代表. macrotumor(1cm以上)が約8割 下垂体MRIで腫瘤を探す。TRH負荷でTSHはほとんど反応しない(無〜低反応) αサブユニット/TSHモル比が高いことも手がかり。④と検査値だけでは区別できない 4 受容体が反応しにくい(甲状腺ホルモン不応症) TRβ遺伝子変異で下垂体も末梢組織も反応が鈍い → TSH・FT4がともに高い(③と同じパターン) 家族歴が助けになるが, de novoが27.6%あり家族歴なしでも否定できない TRH負荷でTSHは反応する(③と逆)。抗甲状腺薬は禁忌に近い(甲状腺腫が悪化) ③との鑑別は下垂体MRI+TRH負荷試験+αサブユニット比+遺伝子検査 検査値が同じ向きに動くだけでは③④は割れない。軸全体で唯一の例外 略語 TRH: 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン / TSH: 甲状腺刺激ホルモン / FT4: 遊離サイロキシン / T4: サイロキシン / T3: トリヨードサイロニン TSHoma: TSH産生下垂体腫瘍 / RTH: 甲状腺ホルモン不応症 / SITSH: TSHの不適切分泌 / TRβ: 甲状腺ホルモン受容体β
TSHとFT4が逆向きに動けば甲状腺そのものが壊れている(原発性甲状腺機能低下症)。同じ向きに動けば壊れているのは上流(視床下部・下垂体)か受容体そのもので、視床下部・下垂体が壊れればFT4が低いのにTSHが上がらない中枢性甲状腺機能低下症、下垂体が自律的にTSHを出し続ければTSH産生下垂体腫瘍、受容体そのものが反応しにくければ甲状腺ホルモン不応症になる。後者2つは検査値だけでは区別できない。
図だけを開く(SVG) 作図 2026-09-15 / 改訂 2026-09-18

出典

次の資料を元に作図しました(図表の転載・トレースはしていません). ガイドラインは改訂されるため, 利用にあたっては最新版の確認をお願いします.

  • 教科書

    虎の門病院内分泌クリニカルプラクティス改訂版 第2章 甲状腺疾患「SITSH: TSH産生下垂体腫瘍と甲状腺ホルモン不応症」

    クリニコ出版(編著 竹内靖博・竹下彰・辰島啓太) / 改訂版(2023-09-28)

    誌面211-215(TSHoma・RTHの検査所見, 偽性SITSHの除外, TRH負荷試験・αサブユニット比・遺伝子検査)

  • 教科書

    カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版 改訂第2版 VIII 内分泌

    日本医事新報社(総編集 坂井建雄・河原克雅) / 改訂第2版(2012)

    視床下部と下垂体(誌面546-547): 視床下部ホルモンによる下垂体前葉ホルモンの分泌調節, TRH-TSH系 / 甲状腺(誌面557): 遊離甲状腺ホルモンが下垂体に負のフィードバックをかけTSH分泌を抑制する

  • 教科書

    内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医研修ガイドブック

    日本内分泌学会・日本糖尿病学会(編) / 診断と治療社 / 初版(2023-05-30)

    甲状腺ホルモン検査の解釈(誌面2): FT4低下はTSHとともに解釈して中枢性か原発性かを見分ける / TSH産生下垂体腫瘍(誌面70-72) / 不適切TSH分泌症候群 SITSH(誌面130-133) / 中枢性甲状腺機能低下症の原因(誌面136)

作図: 病態図鑑(オリジナル). 作図 2026-09-15 / 改訂 2026-09-18. 参照時点の版に基づく.