病態図鑑

糖尿病ケトアシドーシス

酸は脂肪分解の亢進から生じる

糖尿病ケトアシドーシス — 酸は脂肪分解の亢進から生じる 左は機序の絵。上のインスリン絶対的欠乏と拮抗ホルモン過剰から、左へ糖の側、右へ脂肪の側の枝が下りる。糖の側は高血糖、浸透圧利尿、脱水と進み、脱水から左を回って原因へ戻る輪になる。脂肪の側は脂肪分解の脱抑制、遊離脂肪酸、ケトン体、代謝性アシドーシスと進む。下で脱水からアシドーシスへ曲線の矢印が渡る。緑の×は輪を切れる場所で、1が脂肪の枝の上、2が脱水から原因へ戻る矢印の上にある。右は、酸の由来(脂肪分解で生じるケトン体)、同じ高血糖でもケトンが出るとは限らないこと(脂肪分解は糖の利用より低いインスリン濃度で止まる)、どこで切るかを並べたカード。 糖尿病ケトアシドーシス — 酸は脂肪分解の亢進から生じる インスリン欠乏で脂肪分解が抑制されず, 肝で産生されたケトン体が酸として蓄積する. 脱水が悪循環を加速するため, インスリンと輸液を同時に行う. インスリンの絶対的欠乏 + 拮抗ホルモン過剰 グルカゴン・カテコラミン・コルチゾール・GH 1 糖の側 糖が細胞へ入らない ↓ 肝の糖新生・糖放出が増える 酸はここからは出ない 脂肪の側 脂肪分解の歯止めが外れる ↓ FFAが肝へ流れ込む 止めているのはインスリン 高血糖 ケトン体が増える 浸透圧利尿 強い酸として溜まる 脱水・循環血漿量↓ 代謝性アシドーシス 腎灌流が落ちるとケトンを捨てられない = 脱水はアシドーシスも進める 輪が閉じる: 脱水が拮抗ホルモンをさらに上げる 2 矢印は因果. 上から下へ「欠乏と拮抗ホルモンが何を起こすか」, 左を回って「その結果が原因側をさらに強める」. 緑の×は輪を切れる場所(番号は右のカード). 左右の枝は同時に進む. 並べた順序に意味はない. 酸の由来: 脂肪分解で生じるケトン体 インスリンは脂肪分解の歯止め. 欠けると分解が止まらない FFAが肝へ流れ, β酸化を経てケトン体の産生が過剰になる 3-ヒドロキシ酪酸とアセト酢酸は強い酸 → HCO3⁻を消費する 尿試験紙(ニトロプルシド反応)は3-ヒドロキシ酪酸と反応しない. 尿ケトンの出方だけで重症度を測らない 高血糖の高さはケトンの有無を決めない DKA=絶対的欠乏. 脂肪分解が止められずケトンが出る HHS=相対的作用不足. ケトン体産生とアシドーシスは軽度で, 浸透圧利尿による脱水が病態の中心になる 脂肪分解は, 糖の利用より低いインスリン濃度で止まる 半最大濃度は約13 対 約55 μU/mL(健常人のクランプ試験). インスリンが少量でも残ればケトン産生は抑えられる → HHS 逆に SGLT2阻害薬使用中は血糖250 mg/dL以下でも起こる 正常血糖ケトアシドーシス. 血糖値でDKAを否定しない どこで切るか: 2か所を同時に切る 1 インスリンの静脈内持続投与: 脂肪分解を止める → 狙いは酸を作らせないこと(血糖低下は同時に起きる) 2 十分な輸液: 脱水を戻して輪を止める → 腎灌流が戻れば糖もケトンも尿へ捨てられるようになる 電解質の補正を同時に置く: 治療前のKは軽度上昇でも, インスリンでKが細胞内へ移動して治療後に下がる 治療前のK正常〜高値は「足りている」意味ではない. 総量はすでに失われている 略語 DKA: 糖尿病ケトアシドーシス / HHS: 高浸透圧高血糖症候群 / FFA: 遊離脂肪酸 / GH: 成長ホルモン SGLT2: ナトリウム・グルコース共輸送体2 / HCO3⁻: 重炭酸イオン / K: カリウム
インスリンの絶対的欠乏と拮抗ホルモン過剰は、糖の側と脂肪の側の2本の枝を同時に押す。血糖を上げるのは糖の側だが、アシドーシスを作るのは脂肪の側で、抑制の外れた脂肪分解が遊離脂肪酸を肝へ送りケトン体を過剰に産生させる。脂肪分解は糖の利用より低いインスリン濃度で抑えられるため、インスリンが少量でも残ればケトン産生は抑えられる(HHSとの違い)。高血糖による浸透圧利尿の脱水は、拮抗ホルモンをさらに上げて輪を閉じ、腎からのケトン排泄も落としてアシドーシスを進める。だから治療はインスリンで脂肪分解を止めることと、輸液で脱水の輪を切ることを同時に要する。
図だけを開く(SVG) 作図 2026-09-16 / 改訂 2026-09-18

出典

次の資料を元に作図しました(図表の転載・トレースはしていません). ガイドラインは改訂されるため, 利用にあたっては最新版の確認をお願いします.

  • 教科書

    内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医研修ガイドブック

    日本内分泌学会・日本糖尿病学会(編) / 診断と治療社 / 初版(2023-05-30)

    内分泌代謝疾患エマージェンシー「糖尿病性ケトアシドーシス」(誌面19 / 物理55)。DKA=高度のインスリン欠乏とインスリン拮抗ホルモンの増加 / 絶対的欠乏で脂肪分解が亢進し肝のケトン体産生が過剰となり代謝性アシドーシス / 浸透圧利尿に伴う脱水 / 診断基準(血糖250 mg/dL以上・pH 7.3以下・HCO3⁻ 18 mEq/L以下) / SGLT2阻害薬使用中の正常血糖ケトアシドーシス / 尿試験紙(ニトロプルシド反応)は3-ヒドロキシ酪酸と反応しない / Kは軽度上昇・治療後低下 / 治療の基本は十分な輸液と電解質の補正ならびにインスリンの静脈内持続投与

  • 教科書

    ここが知りたい! 糖尿病診療ハンドブック Ver.5

    中外医学社(編著 岩岡秀明・栗林伸一) / 第5版(2021-03-30)

    「高血糖緊急症(糖尿病性ケトアシドーシスと高浸透圧高血糖症候群)」(誌面281 / 物理301)。HHSはインスリンの絶対的欠乏ではなく相対的作用不足によって生じ、ケトン体産生やアシドーシスは軽度で、浸透圧利尿による脱水が病態の中心となる

  • 原著

    Nurjhan N, Campbell PJ, Kennedy FP, Miles JM, Gerich JE. Insulin dose-response characteristics for suppression of glycerol release and conversion to glucose in humans.

    Diabetes / 1986;35(12):1326-31

    脂肪分解(グリセロールRa)抑制の半最大インスリン濃度 13±2 μU/mL, 同一被験者の肝糖産生抑制 26±2 μU/mL(抄録で確認)

  • 原著

    Rizza RA, Mandarino LJ, Gerich JE. Dose-response characteristics for effects of insulin on production and utilization of glucose in man.

    Am J Physiol / 1981;240(6):E630-9

    肝糖産生抑制の半最大 29±2 μU/mL, 糖利用促進の半最大 55±7 μU/mL(抄録で確認)

作図: 病態図鑑(オリジナル). 作図 2026-09-16 / 改訂 2026-09-18. 参照時点の版に基づく.