病態図鑑

糖毒性

高血糖は分泌と作用の両方を壊して、自分を悪化させる

糖毒性 — 高血糖は分泌と作用の両方を壊して、自分を悪化させる 左は輪の絵。上の高血糖から左下の膵β細胞、右下の筋・肝・脂肪へ矢印が下り、どちらもインスリン作用不足へ合流し、それが左側を通って高血糖へ戻る。右上から脂肪酸過剰が輪に流れ込む。緑の切断印が2か所、外から足すインスリンとSGLT2阻害薬の位置に置かれている。右は輪の上半分と下半分で何が起きているかと、どこで切るかを並べたカード。 糖毒性 — 高血糖は分泌と作用の両方を壊して、自分を悪化させる 高血糖は結果であると同時に原因. 輪を切る手段は「血糖を下げること」そのもので, だから早い時期のインスリンで分泌が戻る余地がある. 高血糖 脂肪酸過剰(脂肪毒性) 慢性に曝される 膵β細胞 分泌の側 グルコース応答分泌が落ちる ↓ インスリン生合成が落ちる ↓ アポトーシス・脱分化 ↓ β細胞量そのものが減る 戻れる段階と戻れない段階がある 筋・肝・脂肪 作用の側 Ser/Thrキナーゼが活性化 ↓ IRSがSerでリン酸化される ↓ 受容体の下流が通らない ↓ インスリン抵抗性 受容体は膜に居ても信号が届かない 出せない 効かない インスリン作用不足 輪が閉じる: 血糖がさらに上がる 1 2 矢印は因果. 上から下へ「高血糖が壊す」, 左を回って「壊れた結果が高血糖を上げる」. 緑の×は輪を切れる場所(番号は右のカード). 脂肪酸過剰は輪の外から同じ2か所を押す. 分泌の側: 段階を追って壊れる 最初に落ちるのはグルコースに応じて出す力(量はまだある) 次に生合成が落ち, 最後にアポトーシス・脱分化で細胞数が減る 1型は2型より高血糖でβ細胞が壊れやすい → 見つけた時点で厳格に 2型は追加分泌の立ち上がりの遅れから始まり, やがて分泌量が落ちる 早い段階ほど可逆. 細胞が減った段階は戻らない 作用の側: 受容体の先で信号が止まる 高血糖・脂肪酸過剰・炎症がSer/Thrキナーゼを動かし, IRSをSerでリン酸化して下流(PI3K経路)を遮る 同じ量のインスリンが効かなくなる = 抵抗性 高インスリン血症そのものも受容体を細胞内へ引っ込める どこで切るか: 血糖を下げること自体が治療 1 外からインスリンを足す: 出せない分を補い血糖を下げる → 解除されると内因性分泌が戻り, 中止できる例もある 2 SGLT2阻害薬: インスリンによらず尿へ糖を捨てて血糖を下げる → 糖毒性の解除を介して, β細胞を休ませる方向に働く インクレチン薬は解除してから: 受容体発現が落ちて効きにくい 輪が回る間は「効かない薬」に見える. 薬でなく順番の問題 略語 IRS: インスリン受容体基質 / Ser: セリン / Thr: スレオニン / PI3K: ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ SGLT2: ナトリウム・グルコース共輸送体2 / インクレチン薬: GLP-1受容体作動薬・DPP-4阻害薬(GLP-1: グルカゴン様ペプチド-1 / DPP-4: ジペプチジルペプチダーゼ-4)
高血糖は結果であると同時に原因で、膵β細胞のインスリン分泌と筋・肝・脂肪のインスリン作用の両方を壊し、その結果の高血糖がさらに両方を壊す輪になる。輪を切る手段は血糖を下げること自体なので、早い時期に外からインスリンを足せば内因性分泌が戻る余地がある。
図だけを開く(SVG) 作図 2026-09-12 / 改訂 2026-09-18

出典

次の資料を元に作図しました(図表の転載・トレースはしていません). ガイドラインは改訂されるため, 利用にあたっては最新版の確認をお願いします.

  • 教科書

    内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医研修ガイドブック

    日本内分泌学会・日本糖尿病学会(編) / 診断と治療社 / 初版(2023-05-30)

    総論「膵β細胞のブドウ糖毒性の分子機構」(誌面7 / 物理43), 18-1 糖尿病「膵β細胞量とその異常(糖毒性・脂肪毒性)」(誌面307 / 物理343), 「糖毒性によるインスリン抵抗性(図4)」(誌面310-311 / 物理346-347), インクレチン製剤は糖毒性解除後(誌面317 / 物理353), インスリン療法の適応と糖毒性解除(誌面366 / 物理402)

  • 教科書

    ここが知りたい! 糖尿病診療ハンドブック Ver.5

    中外医学社(編著 岩岡秀明・栗林伸一) / 第5版(2021-03-30)

    インスリンの相対的適応(ブドウ糖毒性の積極的解除)(物理57・161), SGLT2阻害薬による糖毒性解除とβ細胞保護(物理126), 1型は2型より高血糖でβ細胞が壊れやすい(物理162), 入院下の糖毒性解除でインスリン離脱例(物理190)

作図: 病態図鑑(オリジナル). 作図 2026-09-12 / 改訂 2026-09-18. 参照時点の版に基づく.