病態図鑑

急性膵炎の重症化

自己消化と虚血が支え合う悪循環

急性膵炎の重症化 — 自己消化と虚血が支え合う悪循環、初期輸液が輪を切る 左は輪の絵。上の自己消化ピルへ左右から膵管内圧上昇と腺房細胞内での早期活性化が流れ込み、下の逸脱酵素カード・炎症性サイトカインカードへ分かれた後、血管透過性亢進のピルへ合流し、循環血漿量減少・膵虚血のピルへ続く。そこから左側を通って自己消化へ戻る破線の矢印が輪を閉じ、その途中に初期輸液で切れる場所が緑の×で示されている。合流点の下には輪が続いた先の転帰として臓器不全・感染性膵壊死の箱がある。右は逸脱酵素・炎症性サイトカイン・輪の切り方を説明するカード。 急性膵炎の重症化 — 自己消化と虚血が支え合う悪循環 虚血がさらに自己消化を進め, 自己消化がさらに虚血を招く. 輪を切る初期治療の柱は循環血漿量を保つこと. 膵管内圧上昇 胆石陥頓・ERCP後など 腺房細胞内Ca²⁺動員 アルコール・高TG血症など トリプシノーゲン早期活性化 → 自己消化 局所から全身へ 逸脱酵素 局所を壊す 活性化した膵酵素が膵外へ逸脱 ↓ 脂肪壊死・低Ca血症 ↓ 血管壁・周囲組織も自己消化 炎症性サイトカイン 全身へ及ぶ 壊死組織からIL-6等を放出 ↓ 血管内皮を傷害 ↓ 全身性炎症反応症候群(SIRS) 拡大する 波及する 血管透過性亢進 血漿がサードスペースへ漏出 循環血漿量減少 膵微小循環障害(虚血) 虚血→自己消化 1 臓器不全・感染性膵壊死 輪が強く・長く回った先の転帰 矢印は因果. 上から下へ自己消化が進み, 左を回って虚血がさらに自己消化を強める. 逸脱酵素: 膵の外へ漏れて周囲を壊す 活性化した膵酵素(トリプシン等)が膵外へ逸脱する 脂肪組織を分解(脂肪壊死), 脂肪酸がCa²⁺と結合し低Ca血症 血管壁・周囲臓器も自己消化を受け, 出血・壊死が広がる 血中アミラーゼ・リパーゼの高さは重症度とは相関しない 炎症性サイトカイン: 局所の炎症が全身に及ぶ 壊死組織・活性化マクロファージからIL-6, TNF-αなどが放出される 血管透過性が亢進 → 全身性炎症反応症候群(SIRS) 血漿成分がサードスペースへ漏出し, 循環血漿量が減る ショック・急性腎障害・呼吸不全など多臓器障害の引き金になる どこで切るか: 初期輸液で循環血漿量を保つ 1 循環血漿量を保つ: 膵虚血の悪化を止める → 既に出た酵素・サイトカインは輸液で消せない 輸液は多いほど良くない: 過剰輸液は肺水腫等の害 尿量・循環動態を見て調節する. 48時間以内は再評価を繰り返す 輪自体を断つ薬はなく, 支持療法が土台 (輸液・鎮痛・早期経腸栄養. 壊死切除は生じた壊死への対処) 略語 SIRS: 全身性炎症反応症候群 / IL-6: インターロイキン6 / TNF-α: 腫瘍壊死因子α / Ca: カルシウム TG: トリグリセリド / ERCP: 内視鏡的逆行性胆道膵管造影
膵管内圧上昇と腺房細胞内でのトリプシノーゲン早期活性化が自己消化を起こし、逸脱酵素と炎症性サイトカインが全身性炎症反応(SIRS)と血管透過性亢進を招く。その結果の循環血漿量減少が膵の微小循環を悪化させ、虚血がさらに自己消化を進める輪になる。初期輸液は循環血漿量を保つことでこの輪を切る一手だが、既に逸脱した酵素やサイトカインそのものは消せない。
図だけを開く(SVG) 作図 2026-09-15 / 改訂 2026-09-18

出典

次の資料を元に作図しました(図表の転載・トレースはしていません). ガイドラインは改訂されるため, 利用にあたっては最新版の確認をお願いします.

  • ガイドライン

    急性膵炎診療ガイドライン2021(第5版)

    急性膵炎診療ガイドライン2021改訂出版委員会(日本腹部救急医学会・日本肝胆膵外科学会・日本膵臓学会・日本医学放射線学会) / 金原出版 / 第5版(2021-12-20)

    初期輸液の位置づけと循環動態・尿量モニタリング, 発症48時間以内の重症度再評価, 予防的抗菌薬・栄養療法の方針

  • 教科書

    カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版 改訂第2版 IV 肝・胆・膵

    日本医事新報社(総編集 坂井建雄・河原克雅) / 改訂第2版(2012)

    膵液の節「膵液には三大栄養素を分解する酵素がすべて含まれている」: 蛋白分解酵素は不活性な前駆体として分泌され, 十二指腸でエンテロペプチダーゼがトリプシノーゲンをトリプシンに変えて他の前駆体を活性化する(腺房内では自己消化を防ぐ仕組み)

作図: 病態図鑑(オリジナル). 作図 2026-09-15 / 改訂 2026-09-18. 参照時点の版に基づく.